第2話 【深夜、異国で迷子になる】最悪な留学先!?/Joensuu1日目

ヨエンスー
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第1話 留学初日・出発日の気持ち【留学する人へのアドバイス】
フィンランドはヨエンスーに1年留学した私が、見て、感じて、触れたこと、すべてをリアルに綴ります。第1話は、今から留学を始める人への私なりのアドバイスをお送りします。

 

 

ガラガラガラガラ…

真夜中のわびしい中心街を、私が押す重いスーツケースの音だけが響く。

数メートルごとに立っている電灯が、かろうじて数歩先を照す、真っ暗な広い通り。

長く暗い舗装道路の先を眺めながら、「ここで一年も暮らすのか…」

最も考えたくなかったフレーズがふと頭に浮かんで消えない。

今はもうなくなってしまった市内の真ん中にある小さな公園

数時間前

実に7年の時を経て、私は再びヘルシンキ空港に降り立った。

人生初の海外旅行先に、偶然にも、留学生となって戻ってきたのだ。

あー、ついにフィンランドでの留学が始まるのかー…

と、きっと普通の留学生たちは留学が始まる感覚を、わくわくと不安と共に味わうだろう。

が、私の留学は、そんな生易しく始まるものではなかった。

 

 

香港から乗ってきた飛行機が、フィリピン人の一家を30分ほど待っていたせいで遅れて到着。

次のヨエンスー行きの飛行機に乗り換えるまで、わずか10分しか残っていなかった!

感慨深い瞬間を噛み締めるどころか、

焦りでいっぱいの胸と、パンパンのリュックとボストンバッグを抱きかかえ、

私は、どこかで見たような、懐かしい真っ白な内装の間を、

人の間を縫って全力で駆け抜けぬけていた。

久しぶりのヘルシンキ空港、もっとゆっくり見たかったなぁ….と運命を恨みながら。

やっとゲートが見えてきた…!

遠くに、目指して走ってきた番号が見える。

ところが何かがおかしい。

おかしい。行き先が「Joensuu」ではない。

番号を間違えたのかと思い、周りを見渡しても「Joensuu」と書かれたゲートはどこにもない。

掲示板を見てみると、「Joensuu」という文字は消えていた。

 

 

「あの、ヨエンスー行は?」

「ああ、もうだいぶ前に閉まりましたよ」

そう、私は飛行機を逃してしまったのだった。

夢じゃない。

 

ゆっくりと頭の中でプロセスするにつれ、私は自分の顔がだんだん青ざめていくのを感じた。

初めての海外一人旅。

知り合いは誰一人いないし、私のこの状況を気に留める人もいない。

こんな状況って、どうすればいいの…?

最初からこんなことになるなんて、どんだけ運悪いの…

ハァハァと荒い息をしながら、険しい表情で、しばらく荷物を抱えてボーッと突っ立っていた。

 

しばらくすると、

まるで水中に流されていた石が川底にゆっくりと落ち着くように、

私は妙に冷静になれた。

こんな状況の中、逆に力がみなぎってくる不思議な感覚。

やっと初めて自分を自分で操縦しているような気分になった。

 

ふんっと一息鼻から息を吐きだすと、腕に力がこもり、足を踏ん張り、

またボストンバッグを抱えて、走った道を歩いて戻る。

時刻はもう夜の9時頃。私は今日Joensuuにたどり着けるのだろうか。

しょっぱなから試練が多いが、へこたれたってどうにもならないのだ。

 

その時、ふと目に入ったのは、「搭乗手続きカウンター」という日本語の文字だった。

日本語が読めて助かった、というのではなく、

ただこの一行の慣れ親しんだ文字が、このときの私にはたいへん心の癒しになったのである。

誰も並んでいないカウンターに恐る恐る着くと、

フィンランド人のスタッフが「大丈夫。次の便を手配しますね」と優しい笑顔で対応してくれた。

チューターが車でヨエンスー空港まで迎えに来てくれる予定だったが、

深夜に到着するのに、迎えに来てもらうのは申し訳ない。

飛行機を逃したことをLINEで知らせる。

「ごめんなさい、飛行機が遅れてしまったので、到着が遅くなります」

「え?大丈夫?どれくらいに着く?」

「1時ごろです。夜遅すぎるので、迎えは大丈夫です。一人でバスに乗っていきます」

「わかった。バスの乗り方わかる?空港の目の前に来るからわかると思うよ」

 

迎えは大丈夫、なんて、もはや自分の本心とは真逆の回答だった。

「いや、行くよ!」という返信を心から願ったが、返ってきたのはok.の短い二文字。

唯一頼れる人との綱も、自分から断ち切ってしまった。

もう、これからは自分たった一人、オールアローンである。

 

飛行機の遅延問題を解決し、英語でSIMを買って、荷物から決して目を離さず。

一人で一つ一つクリアしてきたことに少しずつ自信はついてきていたものの、

この先のことを思うと心細さでいっぱいだった。

 

全く読めない表記をあてにして、

真夜中にバスに乗り、

自分ひとりだけの力でホテルにたどりつかなければならない。

もしたどり着けなかったら?

真夜中の見知らぬ土地の中を、

どこへ行きつくかもわからず、荷物を引きずっていかなければならないの?

 

フィンランドでの初の食事となった、割高のコンビニのサンドイッチを無心でむさぼりながら、

不安と寂しさを被っていた。

ヘルシンキ空港にあるムーミンショップ。7年前と変わっていなかった。

売店のとても親切なお兄ちゃんがSIMの手続きをすべてやってくれたことは1年経った今も記憶に残っている。ありがとうお兄ちゃん。

 

 

ヘリコプターのような小ささの飛行機は、ヨエンスーを目指して荒々しく空港を飛び立った。

乗客はみな、もの珍しげに私を見つめている。金髪のみの機内に、一点の黒髪。

そうだった、自分は今から日本人がほとんどいないところに行くんだ。

外国に住むという実感が急に差し迫ってきたようだった。

日本で金髪の外国人が目立つのと一緒のことなんだろうな、と思いながらも

その光景はなんだか奇妙で、私はいよいよ孤独な気分になった。

 

自分の席を見つけて安堵するや否や、

疲れ切っていた私は、気絶するように眠りに落ちていった。

ドドドドドドドドド

なんとも雑な着陸による盛大な地響きと轟音でハッと飛び起きると、

窓の外に、今まで見たことのないほど小さな空港が見えた。

おもちゃのようなタラップを降りて、地面に降り立つ。

真っ暗な中、目を凝らすとあたりを森林が囲んでいるのがわかった。

しんとした静けさに包まれていて、自分が飛行場のコンクリートの上を歩くリズムが妙に体に響く。

 

空港の中には、 数個のスーツケースを乗せて動く、

円にもなっていない小さな小さなベルトコンベアと、

それを取り囲んで立っている乗客たち。

ベルトコンベアのウィーンという作動音だけが沈黙を破っていた。

 

数組の乗客はそれぞれの家族の暖かい腕の中に迎えられ、

荷物を分け合いながら家に向かっていく。

 

もう私のことを気に留める人は誰一人いない。

真夜中の暗闇の真ん中で、ぽつんと灯る小さな小さな空港は、笑顔と愛であふれている。

 

一人ひとりが家族に迎えられ、やがて一番迎えを必要としている私だけが取り残された。

私にも迎えがいたらどんなに心強かったろうと考えながら、

甘えを振り落とし、次のステップを考えなければならなかった。

Joensuuってどんなところ?

乗客が自分しかいないバスに揺られ、真夜中の真っ暗闇の中を、バスの光が裂くように進む。

どこまでも、どこまでも続く黒い木々。

終わりのない夜の森の中を、深く深く進んでいく夢を見ているような感覚だった。

 

バスが進むにつれ、不安に心がずぶずぶと浸かっていく。

Joensuuでの暮らしがどんな風になるか、検討もつかない。

もしも大学と2つか3つのお店しかないど田舎だったら…?

そんなところで友達が一人もできなかったらどうやって毎日暮らしていくんだろうか?

そんな環境で1年も閉じこもるの?

 

もんもんとした想いと、重いスーツケース、リュック、ボストンバックを抱え下し、

バスから下車した。

 

あたりには人っ子一人いない。

つんと張った夜の澄んだ空気の中、がらんどうの大通りの大きな電灯のスポットライトを浴びて、

大荷物を抱えた私ただ一人が、動く対象だった。

 

あ、そうだ、もうネットが使えるんだ。

こんな時に、ネットが使えるスマホほど心の支えになるものはない。

方向を確かめて、私はガラガラとスーツケースを押しながら歩き出した。

しばらく歩くうちに、にぎやかな声が聞こえてきた。

開けた大広場の周辺に、バーやレストランの明かりが煌々と通りを照らしており、

その前をたくさんの酔っ払いが右往左往している。

 

時折アハハハハハ!と誰かの爆笑が、ひんやりした夜の空気を突き抜けた。

朝の2時、大荷物を引きずるアジア人なんて場違いそのもの。目立たないはずがない。

さっきの静まり返った通りとは対照的に、たくさんの中年の酔っ払いたちや、

若い少年少女たちが、通りを埋め尽くしていた。

 

目を合わせないように顔をふせ、小走りでスーツケースを押しながら、人の間を縫って進む。

ところが、するすると進んでいたスーツケースが何かにコツンと突っかかり、 一人の酔っ払いの男の前で 体が前のめりになって止まった。

「おやまあお嬢ちゃん、こんにちはぁ」

顔を上げると酔っ払いのうつろな笑顔。

 

異国の地で絡まれるほど怖いものはないことを、クラスメイトの経験から知っていた私は、

心底「まずい…」と思った。

こういうとき無視すべきなのか?無視して向こうが機嫌を損ねたらどうしよう、何か言うべきかな…

迷っている間にも体制を立て直し、なるべく目を見ないように素早く抜け出した。

 

運よく絡まれることはなかったが、それでも 一目でよそ者とわかるこの大荷物と外見。

たくさんの酔っ払いと、たばこ片手の若者群衆の視線が、私の恐怖を膨らませていた。

早く…早くホテルに入らないと…

焦る気持ちと裏腹に、近くにあるはずのホテルはなかなか見つからなかった。

疲労もあって、もう長いことさまよっているように感じる。

端でたむろう若者群衆の目につかないように、助けを求めたい気持ちをひた隠しにし、

何食わぬ顔で通り過ぎる。

 

スーツケース一式を引きずりながら右往左往するのも、もはや精神的に限界だった。

値段は張るが、もうタクシーだけが頼り。

「あの、○○ホテルまでお願いします」

おそるおそる声をかけたが、ドライバーは困ったような顔でこちらを見つめる。

もしかして、…この町では英語は通じないのか…!?

 

英語が通じないとしたら…この町でどうやって暮らしていくのだろうか。

もう誤算だらけ。

フィンランドではみんな英語が堪能だったんじゃなかったの?

やっぱりJoensuuが田舎すぎるんだろうか?

 

地図を見せると、すぐ近くだよ!そこの角だよ!という風に身振り手振りで教えてくれた。

それはわかってる…だけどたどり着けないから聞いたんだけどな…と思いながら、

礼を言って、来た道を戻る。

着ているシャツにしみた乾いた汗の匂いだけで、私の今日の旅の長さを語るには十分だ。

今日という日は、一体いつ終わるのだろうか。

元の道に戻り、やっぱわかんないよ…とまたタクシーに戻ろうとしたとき、

ふと目を凝らした、真っ暗闇の先にかすかに、古ぼけたホテルの看板が浮かび上がった。

明かり一つ灯っておらず、数年前に閉店したようなたたずまい。

本当にここなのか…?

 

ホテルからEメールで、営業時間外での到着になるので、

鍵はポストの中に入れたとの連絡がきていることに気づく。

鍵は「Suvi へ」と書かれた封筒の中に入っていた。

 

 

ギィィと音を立てるドアを押し、スマホの懐中電灯で照らすと、目の前に広がっていたのは、

まるでホラー映画のような古く、殺風景な階段。

耳を澄ませてもなんの音も聞こえてこない。

別のドアはロックがかかっていて開けることができず、部屋へ上がる唯一の方法は、

この不気味な、真っ暗闇の中の長い階段を、合計30kg越えの荷物と共に上がることだった。

 

 

ここまでは多少の試練があっても踏ん張ってこれた。

だけど、ここに来て、最後の最後で、もう私の根性も底をついていたのだった。

人に頼りたい誰かに助けてほしいという欲求が込み上げてくる。

今にも崩壊しそうな心をギリギリで支えながら、しばらくまた呆然と階段の前で立ちすくんだ。

でも、自分しかいない。

自分が何か行動を起こさない限り、何も進まない。

どんなことも、焦らず、一つずつコツコツと取り組んでいけば解決できる…。

自分に言い聞かせながら、荷物を分解し、一つずつ階段の上へと運び上げ始めた。

この夜が、自分の行動の責任感と独立心を確立した、最初の一歩だったかもしれない。

 

次のお話

フィンランドの文化に戸惑い、自分の英語に自信を無くす話。

第3話 チューターさん初めまして。【初めてのフィンランド人との会話】・フィンランド/ヨエンスー留学日記
最悪の留学先は、おとぎ話のような美しい町だった⁉ 早口で、ちょっぴりかっこつけな理系フィンランド男子に、初めて対面した時の話。英語が聞き取れない...!

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