フィンランドの学校教育は世界トップクラス!として有名ですね。
・テストがない
・先生と生徒の間に隔たりがない …など。
それらは果たして本当なのか??
服装が自由だったり、テストがないと、具体的にどんなことにメリットがあるのか?
今回は、当時フィンランドで最も新しい学校 であったヨエンスーの小学校と、
東フィンランド大学キャンパス内の小学校(教育実習で使用される小学校)に、
筆者が実際に見学に行ったときのインタビュー を元に、写真を交えながら考察していきます。
まずは… フィンランド人の勉強に対する意識
独学が当たり前
好きこそ物の上手なれ
フィンランドの方は、自分で勝手に勉強する人が多い印象があります。
「興味がある」と「試しにやってみる」の間に、一寸の迷いもありません。
「やってみたい!」と思ったら、すぐさまyoutubeを見て独学を始めます。
そのため、例えば、プログラマーなのに歌手で、しかも日本語ペラペラ、とか、
マルチなスキルを持ち合わせている人が多いです。
「勉強」という言葉に、苦手意識が全くないのが伺えます。
留学先の大学では、言語3つ以上話せるのは当たり前とされていて、日本語と英語しか話せない筆者は焦ったのを覚えています。
さらに、筆者の出会ったフィンランド人たちの中で、日本語を少しでも学んだことのある人は3人に一人という高確率でした。日本文化が人気のフィンランドでは、日本語に興味を持つ人が多いようです。
「落ちこぼれ」を作らない
フィンランドの教育で一番に重視されているのは「平等」
教育の機会の平等を目指す、という意味だけではなく、
授業の内容 に関しても、平等に分配されるように気を配っています。
用は、生徒を賢い子クラス、できない子クラスに分けて、
学習内容に大きな差を設けるようなことはしない、ということです。
それでは、少し理解が他の子より遅れている子がいたらどうするかというと、
クラス全体でその子のお手伝いをするのです。
「落ちこぼれを作らない」
教育内容の平等性を保つため、遅れている子を置いていくことはせず、
クラスの仲間同士で教え合います。
「教えることによって、教える方も教えられる方も勉強できるからね」
と、先生は基本見守る立場を取るそうです。
または、後に説明する「見守る先生」が、授業に追いついていない子へ、ちょこちょこっと手助けに来てくれます。
ここが違う!フィンランドのユニークな教育
教える先生と見守る先生
日本では、先生はクラスおよそ30人ほどにつき1人ですね。
ところが、フィンランドのクラスには、生徒20人くらいに対し、先生が2人いるのです。
人数は地域によって異なります。私の小学校は全生徒10人くらいだった(笑)
フィンランドの学校には、「教える先生」と「見守る先生」がいます。
「教える先生」は、日本の一般的な先生と同じように教壇に立ち、講義を行います。
そしてさらに「見守る先生」という生徒たちを見守る担当の先生が配属されていて、
クラスの中で困っている子や追いついていない子がいないか、
教室の後ろからひそかに監視しています。
そして助けが必要そうな子がいると、そっと補助に入るのです。
ちなみに、教える先生と見守る先生は、適宜交代するそうです。
ある一人の先生が見守る先生ばかりしていると、生徒になめられてしまうからとのこと。
不必要に叱らない教育
基本「ほめる指導」が主になっていて、基本先生は宿題などの成果物をほめてくれます。
生徒が課題に「取り組んだ」ことを評価しているようです。
留学先の大学でもその風潮は感じられ、「こんなもんだめだ!」と怒る先生はいませんでした。
ほめてばっかりじゃあ、ちっとも成長しないじゃないかと思うかもしれませんが、
ちゃんと指摘もします。
まず「よく頑張ったね」とほめてくれてから、
「ここはもう少しよくなると思うんだけど、どうしたらよいと思う?」
とヒントをくれるのです。
ここでヒントしか言わないのもポイント。
自分の頭で考えさせる。「見守る教育」を大切にしているため、
何事もまず生徒に考えさせるのです。
また、子どもはそもそもじっとしないものだ、と理解されているため、
学校のみならず、公共の場でも騒ぐ子供にしかりつける大人はいません。
筆者は地元の教会のサービスに参加したことがありますが、
厳かな空気の中でも、子どもがあちらこちら走り回っていることに衝撃を受けました。
舞台によじ登って、牧師さんのありがたいお話中にちょっかいをかける子もいましたが、
ハハハ、かわいい子が来たねぇ…と、迷惑がっている人は誰一人いませんでした。
皆、子どもを無理やり座らせることはせず、あくまで見守る体勢を保っていました。
子どもが得意とする部分を伸ばす
先ほど落ちこぼれを作らない、と言いましたが、
苦手は作らないように指導するものの、
あくまで「子どもの好奇心を尊重する」体制を取っています。
子どもの好きなことを極めさせるのです。
子どもが「これやってみたい!」と言ったら、
「難しいよ」とか「それはちょっと…」など言わずに
「やってみなさい」と、まず子ども自身にやらせるそうです。
フィンランドの社会全体で見ても、
例えば、図書館に誰でも無料で使える楽器やレコーディングの部屋、
カラオケの部屋、ビデオゲームの部屋などがあるように、
子どもにせっかく芽生えた好奇心が、機会の不足や不平等によって
摘んでしまわれないための工夫がなされています。
誰もが手の届く、平等な教育や体験の機会を、社会全体で提供しているのでしょう。
子どもが合わせるんじゃない。【子どもに合わせる】教育
学校の学習環境は、生徒が心地よく勉強できるように様々な工夫がされています。
もうご想像つくかもしれませんが、フィンランドの小学校では、
机に終始しがみついていなくてもよいのです。
「人をダメにするクッション」や、”手で握って遊ぶおもちゃ(スクイーズみたいな)” が机に置かれています。
授業中、集中力がなくなってきたら、
子どもたちはクッションに移動して寝そべりながら勉強したり、
おもちゃをにぎにぎしながら先生の話を聞いています。
そもそも授業中に静かにすることはあまり求められていません。
でもフィンランドの生徒もみんなシャイなので、日本と同じように手を上げるのを恥じらう子も多いよ
さらに、私の見学した授業では、授業中子供が飽きてきた頃にコーヒーブレイクを挟んでいました。
5分間先生とトランプゲームをする時間が設けられていたり、
そもそも授業の最初から最後まで集中することは、特に低学年では想定されていないようです。
ダラダラ長時間するよりも、休憩をはさみながら集中して行うことを大切にしています。
また、別のハイテク小学校では、いろんな種類のテレビ付きの部屋が用意されており、
生徒たちは授業中、先生の許可をもらえば好きな場所で勉強することができます。
例えば、「今から20分間でグループワークしてね」というとき、
生徒たちは校内に散って、それぞれの部屋や思い思いの場所でグループワークをし、
20分後に教室に帰ってくる、といった具合です。
こちらの写真にある小部屋は、子どもがもめごとを起こした時など、プライバシーが必要な時に使用されるそうです。
もちろん、普段は子供たちの遊びに使われています。
また、余談ですが、服装もアクセサリーも髪色も、ちろん自由です。
教室を見ていると、パンクファッションの子も、清楚な服の子も、
みんな色とりどりに入り混じって交流していて微笑ましかったです。
「学校は楽しいところ」という意識作り
学校に行くのがストレスだった、という人は私だけではないはず。
学校に嫌々通う、というのは避けて通れない道だと思っていました。
しかしフィンランドでは、学校=ポジティブなイメージ につながるように、工夫と労力が注がれています。
子供にとって、できるだけ居心地のよい空間づくりがなされているのです。
例えば、インタビューした先生によると、
子どもが反抗するのは、教師と生徒の間のコミュニケーションが不足しているからだ
とのことで、
いじめも、日頃から先生とのコミュニケーションが豊富で、親睦が深められているならば、
すぐに発見できるとのこと。
実際、先生たちは休み時間に生徒とまるで友達のように楽しそうに会話しています。
休み時間中、教室の隅に立って、生徒の様子をじっと観察することは、
生徒に「あ、監視されてる…?」という不快感やストレスを与えるため、良しとされていません。
また、生徒が「受け入れられている」という先生への信頼を深めるために、
先生はある程度の罵り言葉は、注意せずに見逃すそうです。
生徒が先生を友達のように慕うことで、先生と生徒の間の絆を深めているのです。
こちらの写真にある部屋は、職員室です。
扉を透明のガラスにすることで、中がよく見えるようにし、
生徒が気軽に先生に会いに行けるようになっています。
このように休み時間中にも、教師は生徒にとって居心地の良い環境を与えるために
様々な工夫を施しています。
こうして「学校は楽しいところ」という印象を作ることで、
生徒の「学校に行きたい!」というモチベーションを上げ、勉強周辺の環境を居心地良くしています。
ハイテク技術の採用
こちらは、ヨエンスーで最も新しい小学校の写真です。
テレビが教室に2台設置されており、教室の前(教卓となる部分)に一番大きなテレビがあります。
大きなテレビの両側は、スライド式のホワイトボードになっています。
また、生徒は入学と共に、専用のタブレットを配布され、卒業までずっと借りる形になります。
宿題も出席も授業も、すべてこのタブレット、テレビで行われ、紙が登場する場面はほとんどありません。
生徒はタブレットを用いて宿題をし、親に見せてチェックをもらいます。
チェックは先生のタブレットに送信されるので、宿題をやったかどうかが一目瞭然。
また、欠席する時の連絡もタブレットを使うのでスムーズです。
授業では、生徒は先生がスクリーンに書いたことをタブレットで写真を取って保存したり、ノートアプリでノートを取ります。
授業の中には、タブレットでプレゼンテーションを作成する課題もあり、そんな時は、
作成したプレゼンテーションのデータを、その場でクラスの前の大きなテレビに飛ばして、
みんなの前でプレゼンをすることができます。
また、生徒はそういった課題をこなす中で、著作権について学ぶといいます。
東フィンランド大学内の小学校(別の小学校)では、テレビの代わりに大きなホワイトボードがありました。
プロジェクターで授業内容をホワイトボード上に投影し、日本の学校でいう黒板の役割を担っていました。
授業中は、プロジェクター投影をしながら、ホワイトボード上に必要であればインクで書き込みをします。
しかし、実は先生がホワイトボードに書き込みをする時間はあまり多くないのです。
たいていは生徒たちが前まで出てきて、ホワイトボードを前にあーだこーだ言いながら、
投影されたホワイトボード上に、自分たちの考えを記すことに使用されます。
例えば、スウェーデン語の授業では、ホワイトボード上にスウェーデン語のクロスワードが投影され、
生徒たちは相談し合いながら、映し出されたクロスワード上に書き込みをしていました。
このように、ほとんどデジタルで行うことで、黒板に先生が書く時間や労力を節約でき、
子どもたちもノートに書き写す作業をしなくてよいため、授業の効率を飛躍的にUPすることができます。
ノートを書き写すことよりももっと大事なのは、授業に積極的に参加すること。
無駄な部分は徹底的に省くことで、授業中でしかできない学びを最大限に生かすことが可能となっているのです。
また、先生たちにとっては、黒板に費やす時間が減ることで、生徒一人ひとりの面倒をみる時間が増えることになります。
“学年”の壁がない
こちらの小学校見学時に驚いたのは、1年生~3年生のクラス間に壁がないこと。
1年生~3年生のクラスはすべて一階にあったのですが、
クラスの間に壁はなく、すべてカーテンで仕切られていました。
(写真左側)
その理由は、学年間の交流や移動を盛んにすること。
よくできる子がいれば、上の学年へ。ちょっと理解が難しい場合は下の学年へ。
いつでも自由に移動できるそうです。休み時間も学年の隔たりなく遊びます。
また、授業によっては、カーテンを開け放して、クラスを統合させるそうです。
休み時間は好きなことをしてリフレッシュ
生徒は、休み時間に体を動かしてリフレッシュすることが、学習意欲と集中力を保つ上で必要不可欠なんだとか。
どんな寒い日でも、適切な服装をすれば外で遊べる!
「悪いのは天候ではなくて、天候とミスマッチな服装だ」これは北欧諸国の基本理念です。
子供たちは短い休み時間でも、寒い日でも、外へ積極的に遊びに行くことで、
厳しい自然環境の中での適切な服の着こなし方を学びます。
一方、校内にはゲームも!
ビリヤード台、卓球台、ボードやトランプゲーム、さらにxboxみたいなテレビゲームまで!
先生いわく、体を動かして遊べるテレビゲームだから、屋内でも運動できる!とのこと。
テストを重視しないは本当だった
テストを重視しない理由として、インタビューした先生は、
「テスト日の出来だけで判断できないでしょ。テストだけで評価したら、生徒はテストのための勉強しかしなくなり、テストが終わったらすべて忘れてしまいます。」
テストの結果は重視しないため、
テスト後、生徒が家でテストを復習して、間違えたところを解けるようになったら、
得点を上げるなんてこともするそうです。
とのことでした。
では、どのように生徒の成績を付けるのか?
「常日頃から生徒一人ひとりを観察し、彼らの日頃の出来や努力を理解するのです。一人ひとりを知らなければできない作業です。」
教師は、教室の前で講義を行うことよりも、一人ひとりの苦手な部分や得意な部分を把握し、
それぞれオーダーメイドの指導を行うことを重視しています。
生徒の困っていることを把握するには、生徒との絆の構築が不可欠であるため、
さきほど述べたように、先生は生徒と日頃から親睦を深めることを重視しています。
しかし、先生が生徒と親睦を深めすぎても、
「なんかお気に入りの生徒とかできて、ひいきしてそうじゃない?」
と思ってしまいますよね。
インタビューした先生によると、生徒の成績評価に主観がなるべく混じってしまわないよう、
授業中はすべての生徒に対し、ニュートラルに接するそうです。
例えば、ある生徒が
「はーいはいはいはい!その答えわかります!」
と張り切って正解した時。先生は、
「よーくできました!正解!」
と感情的にほめるのではなく、
「Ok, 正解」
と、「”生徒が正しい回答をした” こと自体を褒めない」ように工夫しているそうです。
生徒が先生を喜ばせることに躍起になり、”先生の喜ぶ回答” を作ることに集中しないためです。
このようにニュートラルに接することで、生徒が「先生のお気に入り」になることを目標にしないように対策することができ、
また、教師も生徒を特別扱いをしないことに意識を向けることができるそうです。
覚えることは重要じゃない
テスト中にストレスのせいで、せっかく覚えていたことを忘れてしまったことはありませんか?
子供たちがテストの際中「せっかくこれ知ってたのに・・・!緊張で忘れちゃったー!」と忘れてしまうのはしょっちゅうあること。
テストが重視されていないのには、そういった理由もあるとのことです。
また、タブレットが授業で積極的に使用される理由もここにあります。
覚えることよりも、得たい情報をどのように的確に引き出して、それをどのように用いるかが大事
という考えが根底にあり、
思い出せないことはさっさとタブレットで調べよう、といった具合です。
こちらで書きましたが、先生でも授業中に授業内容を忘れてしまうことがあり、
「あれ、なんだっけ、ちょっと調べさせてね」といったことは日常茶飯事なんだそう。
私の留学先の大学の授業でも、教授はそんな感じでした。
わからないことは調べる、ことを全く恥じている気配がない のです。
残業なしの4時帰宅
教師でも残業はありません。4時に直帰だそうです。
さらに、授業の準備は朝の授業開始前の1時間で済ますそうです。
もともと、授業中は生徒自身が自分たちでホワイトボードに書きに行ったり、
タブレットを用いてプレゼンテーションを作成したりするため、
先生はプリントを作ったり、黒板に書く内容を準備する必要がありません。
そのため、授業の準備にそれほど時間がかからないのかもしれません。
最後に:貧困地域に建設された小学校
ヨエンスーにある、当時フィンランドで最もモダンと言われた小学校に見学に行ったときに聞いた、建設秘話です。
紹介してきました、フィンランドで最もモダンな小学校ですが、実はもともと貧困家庭の多い地域に建設されました。
貧しい生徒の中には、夕方や、金曜日になると家に帰りたくないがゆえに泣き出したり、
貧しくて食事が満足に得られないので、月曜日におなかをすかせて登校してくる子供もいるそうです。
これほどハイテクな設備を誇る小学校でも、決して裕福な家庭の子しか入れないということはなく、
貧しい子供にも平等に教育の機会を与えるために存在するのだ、ということに感動しました。
フィンランドがいかに教育の機会の平等を重視しているかが分かります。
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